碧い蜻蛉
西新宿の土壌で蚕を育てる・・・・
すでに報告したように東京都西新宿保健センター玄関前の道路際に溜まった真っ黒い土壌から放射性セシウム合計で1万4千Bq/kgという高濃度の放射能が検出された。チェルノブイリ事故との比較で言えば強制避難区域に相当する汚染状況である。ソ連であるのなら無人になってもおかしくない場所に、平然と人々が暮らし、仕事をしている。
ここまで鈍感に飼い慣らされていることに悲しい気持ちで一杯である。六道輪廻の畜生道に陥っている姿である。
まさに、福島、関東の人たちは生体実験のサンプルとしてまな板に乗せられているのだが、もう少し結果が早く見えるように蚕で生体実験を行ってみよう。
西新宿の土はガンマ線強度は14,000ベクレル/kgであったが、他にもベータ線、アルファ線を放出している。KH−LNHD7317を用いて、土壌表面から放出される強度を求めておく。シャーレに2mm厚さに土壌を敷き詰め、まず、ガンマ線をカウントする。次いで、アクリルのカバーを外してベータ線とガンマ線の合計をカウントする。その差がベータ線によるカウントになる。この方法では土壌表面から検出器の下の端まで17mmあるのでアルファ線は減衰してしまうので、プラスチックの板に直径2cm、厚さ約2mmになるように土壌を盛りつけ、まず、紙で覆ってベータ線とガンマ線の合計値を計測する。ついで、紙をはずして、アルファ線+ベータ線+ガンマ線を計測しアルファ線によるカウントを求める。
実験は蚕の卵からの孵化に与える影響を見るためアルファ線も含めた影響を観る群①、紙を置いてアルファ線の遮りベータ線ガンマ線の影響を観る群②、対照としてバーミキュライトの上に紙を置いて少ないベータ線、ガンマ線下で育てる対照群③の3群。さらに、西新宿よりも高濃度であった和田蔵門駐車場で採取した土の上で缶の中に卵を入れてベータ線まで遮った状態でガンマ線のみの影響を観る群④を加えた4群で孵化実験を開始した。
蚕種は信州の会社から取り寄せたもので、実験開始5月30日、掃き立て予定(孵化予定日)は6月7日である。
実験開始から掃き立て予定日まで8日間、691,200秒ある。小さな卵にどれくらいの放射線が当たるかを下記の数値から推測することが出来る。
アルファ線も含めた影響を観る群①
アルファ線を遮りベータ線ガンマ線の影響を観る群②
バーミキュライトの上に紙を置いて少ないベータ線、ガンマ線下で育てる対照群③
和田蔵門駐車場で採取した土の上で缶の中に卵を入れてベータ線まで遮った状態での群④
卵(1mm2と仮定)に当たる放射線強度をKH-LND7317での測定をもとに算出
① α 15.2 cpm/直径2cm → 8.1×0.0001 cps/mm2
α+β+γ 72.2 cpm/直径2cm → 38 ×0.0001 cps/mm2
② β+γ 101 cpm/直径4.5cm → 10.6×0.0001 cps/mm2
γ 45.0 cpm/直径4.5cm → 4.7×0.0001 cps/mm2
③ β+γ 52.9 cpm/直径4.5cm → 5.5×0.0001 cps/mm2
γ 41.8 cpm/直径4.5cm → 4.4×0.0001 cps/mm2
④ γ 52.9 cpm/直径4.5cm → 5.5×0.0001 cps/mm2
①と②の比較はアルファ線の寄与を観る実験。②と③の比較は汚染土壌上でのベータ線とガンマ線の寄与を観る実験。③は比較対照。④は、もう少し激しい汚染土壌上でα線、β線を遮る条件での孵化状況を観る実験。
2013年6月3日
土への直置き卵は孵化率 約2割
2013年6月10日
予定通り6月7日に孵化を開始、6月8日夜から桑の葉を与え始めた。正確な数はまだ確認できていないが、西新宿保健センター土壌の上に直接置いた卵①は2割程度の孵化であり、他の3群より圧倒的に劣っている。孵化の経過を肉眼的に観察していると、途中で卵が白くなってしまい明らかに死んでいるようなものが多くあった。ルーペで確認しても白いのは外部に付着したカビなどでなく、内部の白濁と見られる。
紙を一枚敷いた群②、γ線だけを当てた群③もほぼ全量が孵化しているようである。(未孵化の卵はもう少し蚕が大きくなり、容器を変える際にカウントして報告する。)
シーディークリーエーションの鈴木さんがやった時は孵化率5%であった。
東京の土に蚕を直に置いて孵化させようとすると大半が死ぬという結果になった。実験条件から見て、土壌から放出されるα線による打撃によると考えて良いだろう。
組織中のα線の貫通力は40μmくらいと言われているが、蚕の卵殻の厚さは20μmくらいなので充分内部の卵黄膜に到達して内部に侵入する。α線のエネルギーは0〜10メガeV(電子ボルト)。
図 蚕卵直後の卵の縦断模式
A:前極、D:背側、P:後極、V:腹側。
a:前極原形質、c:卵殻、d:連絡管
m:卵門丘、n:卵核、p:周辺細胞質
v:卵黄膜、y:卵黄
http://www.nias.affrc.go.jp/silkwave/hiroba/Library/SanshuSouron/chapter6/chapter6.htm
β線とγ線の影響を観る②、γ線の影響のみを観る④、汚染していないバーミキュライト上でβ線とγ線の影響を観る③では卵の白化は起きなかった。
写真は6月10日における稚蚕の様子
α線が卵を撃ち殺す?!
アルファ線も含めた影響を観る群①
アルファ線を遮りベータ線ガンマ線の影響を観る群②
バーミキュライトの上に紙を置いて少ないベータ線、ガンマ線下で育てる対照群③
和田蔵門駐車場で採取した土の上で缶の中に卵を入れてベータ線まで遮った状態での群④
紙でα線を遮断した群は小さい
2013年6月11日
β線の影響か?!
上の写真でははっきりわからないので並べて写真をとると明らかになるが、実験②土の上に紙を敷いてα線のみを遮断して孵化させた群は他の三群に比べてかなり小さい。
左側が実験②の群。
一番上の写真はα線のあたる環境でも生き残って孵化した①群との比較であるが、残存群の方が大きな個体になっている。小さな個体が二頭見られるが、遅れて孵化してきたもの。
①の群はやや生育が早いようにみられる。鈴木さんの実験でも「巨大化」と表現され、非常に早く大きくなったが、成虫の大きさは同じくらいだった。放射線の影響で老化が促進されているのだろうか?
真ん中の写真は対照群③との比較である。
一番下の写真は④群との比較である。④の土壌はセシウム数万ベクレル/kgとみられ、強いα線、β線、γ線を放出している。γ線のみの被曝になるように設定した④群はほぼ全数孵化した。
経過を観察してその都度報告していくが、生育の促進と生育の阻害という両面が出てくることは放射能の影響の複雑さを示すものだろう。
1回目の眠に入るのも遅い
2013年6月12日
アルファ線を遮りベータ線ガンマ線の影響を観る群②
上から反時計回りに①、②、③、④である。①、③、④群はすでに昨晩から第1回目の眠に入っているので、桑の葉が消費されていない。しかし、発育の遅れが観られる②群は朝の時点ではまだ眠に入っていない。
眠に入ると、皮膚の下に新しい皮膚が形成されて、脱皮の準備に入る。じっとして動かないから眠と呼ばれているのだが、非常にダイナミックな生理作用が進行しているはずだ。4齢から5齢になるくらいの脱皮を観ていると、気門の穴の奥まで皮膚がはがれ落ちて抜け出してくるのが見える。
多少の遅い早いはあるが、同じ日に孵化した蚕は期を一にして眠に入る。②群は群として眠に入るのも遅れている。
放射線環境から解放
2013年6月13日朝
左から①、②、③、④である。①、③、④群は眠から醒め、脱皮を終えて活発な食をみせている。②群は昨夜から全体が眠に入っている。
飼育環境を広げる(蚕座を広げるということばがある)ため放射線環境にばらつきがでてくるので、放射線環境から解放して今後の飼育を行う。
試験群 |
放射線環境 |
試験蚕卵数 |
孵化率 |
営繭生存率 |
① |
α+β+γ |
100 |
20% |
13% |
② |
β+γ |
100 |
97% |
82% |
③ |
対照 |
100 |
84% |
57% |
④ |
γ |
50 |
90% |
70% |
孵化率
対照群③の孵化率が低いが、バーミキュライトに水を含ませる時に、やや過剰になり、濡れた紙に卵がふれていた部分に集中して未孵化の卵が残ってしまった。
三齢に入り、食いっぷり向上
2013年6月18日
左か順に①、②、③、④
当初より若干減少したが、生育状況は相変わらず②の群が遅れている。
孵化から2週間 体長を計測
2013年6月20日
孵化から2週間が経過、②は生育に遅れ、①④はばらつきが大きい傾向が続いている。
写真にとって計測できるものだけを対象に体長を計測した。印象的には①が大きいだろうとみていたが、数値化してみると対照群としたバーミキュライト上で孵化した群、つまり過剰な放射線の影響を受けずに孵化した群が最も生育が良く、ばらつきも少ないことがわかる。
β線γ線の強い環境で孵化した②群はそろって生育が悪いことがわかる。α線の打撃下で生き延びた①群も桑の葉に昇ってもβ線γ線の照射を受け続けており全体としては生育が劣っている。強いγ線だけが当たるような環境で孵化させた④群も生育にばらつきが大きくなっており、対照群よりも生育が悪い。
個体でみると放射線にかかわらずすくすくと育っているように見えたが、集団として放射線に依る生育阻害が明らかになって来ている。
これは、東京都の健康部局である西新宿保健センターの玄関前の土壌である。
試験群 |
① α+β+γ |
② β+γ |
③ 対照 |
④ γ |
体長 cm |
2.87 |
2.52 |
3.20 |
3.02 |
標準偏差 |
0.53 |
0.36 |
0.37 |
0.73 |
孵化から17日 五齢に入り始めた
2013年6月25日
①群からマユを作り始める
2013年7月1日
①群に続き③群もマユを作り始める
2013年7月3日
①群が最初の1頭に引き続き、4頭が営繭(えいけん)に入る。14頭のうち5頭が営繭。今日になり③群から2頭が営繭(上図)。右は適当な空間を見つけて繭づくりに入っている蚕(①群)。
衆議院チェルノブイリ原子力発電所事故等調査議員団報告書によると「被曝線量が高い区域の居住グループでは、体重がけた外れに大きく生まれた子どもが多かったほか、異常に低い体重で生まれた子ども多かった。(p79)」と記述されている。
蚕に現れている現象もこの報告と符合しているようだ。
各群の繭つくりの様子
2013年7月10日
各群の繭の重量・容積・最終生存率
2013年8月8日
各群の繭づくりに入った数を上表に示す。①群が早く始まっている。次いで③群が2日遅れで営繭開始、②群と③群が3日遅れで開始。
繭が作られて、内部でさなぎ化してから重量を計る。繭の大きさは長径、短径を計測し、回転楕円体だと仮定して仮想体積を求めた。
①から③群についてはほぼ同等の成績であった。途中で生育の遅れていた②群は5齢になって食事量を増やし、営繭開始が遅れながらも対照群である③と同等以上まで回復した。対照群は孵化時の管理が悪かったためか途中で死ぬものが多く生存率は①群についで悪かった。
①群は⑳個体孵化したが、結局13個体が営繭した。途中で生育が早いように見えていたが繭の段階では②、③群と同等になった。
ガンマ線の強い環境(約6万ベクレルの土壌上)で育った④群は他の3群よりも小さな繭となった。
8月1日現在、ほとんどの個体はそれぞれの群の中で羽化、交配をして、雌は産卵してほとんど死んでいるが、まだ生存しているものもいる。
虫の標本はまったくやったことがないが、虫ピンにさしてお見せするようにしよう。(生きている間に殺して標本にするそうだが、びびって自然死してから虫ピンに刺したら、羽は折れるは、足ははずれるは、さんざんなものになってしまいました。とても見られないようなしろものになってしまったので、パス!)
卵は、冷蔵保存すればいつでも孵化できると言うことを聞いているが、まだ成功したことがないので、来春の孵化まで保存しておきます。